6. 人材確保
6-1. 日本人駐在員
中小企業の場合は駐在員の人選が大きな課題となります。技術部門や生産部門しか経験のない人が突然、現地法人の責任者としての仕事を任されることが多いのです。そしてその方は大きな不安を胸にインドネシアへ赴任することになりますが、これまでに経験したことのない、あまりに範囲の広い責務に茫然自失になるかもしれません。それに対して本社サイドにサポート機能がある訳ではないので、まさに泥縄式に、もぐら叩きのような仕事に追われることが危惧されます。
この問題について触れるとあまりに長くなりますので、本書では深入りしませんが、事前に何を勉強しなくてはいけないのか、別途改めて書籍にして出したいと考えています。
6-2. インドネシア人キーパーソン
インドネシアの法律では、外国人は経理と人事の仕事に直接タッチすることは認められていません。もっと具体的に言うと、経理伝票や雇用契約書に承認サインが出来るのはインドネシア人のマネージャーまたは役員だけです。その横に日本人社長の同意のサインをすることは構いませんが、もし日本人のサインだけで経理や人事の仕事を仕切っていることが関係省庁に知られると法律違反で罰せられます。
経理の仕事は基本的に国が違っても言語が変わるだけで、複式簿記の考え方は世界共通ですから大きな問題にはなりませんが、人事労務の仕事になるとそうは行きません。言葉の違いだけではなく、法律、文化、歴史、政治等々、日本とは異なる環境で、インドネシア人の従業員を管理するのは決して易しいことではありません。
インドネシアは世界でも有数の親日国家とは言っても、時としてインドネシア人従業員と日本人駐在員、あるいは日本本社との間には溝が出来てしまうものです。そんな時に溝に橋をかけてくれて、橋の真ん中で双方に歩み寄りを呼び掛けてくれるインドネシア人の社員がいてくれるのはとても有難いのです。
その人に要求されるのは日本語ではありません。出来た方が良いには違いないのですが、それは十分条件であって、必要条件ではありません。日本語を習得するのに比べて、インドネシア語を習得するのは遙かに楽ですから、日本人駐在員がインドネシア語を勉強すれば良いだけです。
何よりも大事なことは、インドネシア人従業員から信頼されることです。そして日本人駐在員からも信頼されることです。そのためには、日本人の上司に対しても、阿ることなく意見が出来るような人でなくてはなりません。それこそが、インドネシア人従業員に信頼される条件だと思います。便利さから日本語が出来ることを最優先することは避けなくてはなりません。
6-3. 社員教育
『インドネシア人は言われたことしかやらない』、『同じことを何度言っても分からない』などの不満を口にする日本人駐在員を多く見て来ました。私自身も赴任した初めの頃はそのように言っていました。そして、どうして彼らは言われたことしかやらないのだろうか、どうして何度言っても分からないのだろうかと、インドネシア人の幹部社員に聞いてみたことがあります。
彼らが言うには、特にジャワ人は上司に対して出しゃばったことを言ったり、出来なくても、または知らなくても否定的な返事をしたりするのは大変失礼なことであるから、日本人から見るとそのように誤解されるのかもしれないそうなのです。
しかし、どうも原因はそれだけではないような気がしていたのですが、ある時、大きな間違いを犯していることに気が付きました。仕事を依頼する時に5W1HのWhat, When, Where, Who, Howは伝えるのですが、Whyをちゃんと納得出来るように説明していなかったのです。
これはマネージャークラスに限ったことではなく、現場のオペレーターに対しても同じことです。なぜこの仕事をしなくてはいけないのか、しないとどうなるのか、することによって我々にどんなメリットがあるのか、等々を彼らが納得出来るまで繰り返して伝えなければ、言われたことしか出来ないのは当たり前ではないでしょうか。
しかし、このWhyを説明するためには、What, When, Where, Who, Howだけを伝えるのに比べて、その10倍くらいの知識と労力が必要となります。しかし、一旦Whyを理解してもらえると、その後は楽になるだけでなく、効果も100倍くらいになるでしょう。なぜなら、インドネシア人の社員が自分で考えて判断してくれるので、日本人が張り付いていないと心配で仕方がないという事態から解放されるからです。