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20.08.2012 出島『海外ビジネスコラム』原稿

7.現地業者との付き合い

 インドネシアの経済の90パーセントは、人口約5パーセントの中国系インドネシア人、いわゆる華僑によって支配されていると言われています。実際に筆者が駐在していた工場の納入業者も、ほとんどか華僑資本の会社でした。彼らには何か共通するものがあったように思いますが、これから紹介する人達の中から読者は何を感じるでしょうか。

 P社には板材の表面仕上げを発注していました。工場は港の近くの古い工場地帯の中にあり、雨がふると道路のあちこちに大きな沼が出来て、四駆かトラックでないと通れないような環境の中にありました。工場の設備はお世辞にも近代的とは言えないのですが、先代から仕えて来たという、小柄で痩せた中国人なのに色の黒い、いつもサンダル履きの初老の工場長が、職人技とも言える素早さで納期、品質、コストを管理していました。時としてその姿に、職人だった自分の父親を重ね合わせたものでした。ここの若社長は当時40歳前後でしたが、例えばアメリカでのアパート経営など、リスク分散を目的に、全く異なるいくつかのビジネスに投資していることを教えてくれました。筆者が帰国する直前に、阪神淡路大震災やサリン事件が発生したものだから、日本は危ないからインドネシアに残って自分の仕事を手伝えと、最後まで心配してくれた人でした。

 S社には梱包用の緩衝材を発注していました。日系の大手家電メーカーからの仕事が主で、筆者の工場からの分は僅かであったはずなのに、一ヶ月に一回は必ずオーナー社長自らが御用聞きに来社するという義理堅い会社でした。ある時嬉しそうな表情でやって来て、ドイツから最新鋭の機械を取り寄せたから見て欲しいと言うので、さっそくそこの工場を訪ねてみました。旧式の機械をずらりと並べた薄暗い工場の一角に設営されたブースの中にその機械は設置されていました。エアコンが効いた綺麗なブースの中で、社長は得意満面でその機械を操作して見せてくれたのですが、まさか自分で操作するのかと聞いたところ、そうだが何か?と言われ、これがこの人の道楽なのだなと納得して帰って来た次第でした。今頃は、アメリカ留学でMBAを取った息子に経営を任せ、嬉々として最新の機械を物色していることでしょう。

 D社には鋳物部品を発注していました。社長は創業者の孫であるとのことで、肝っ玉かあさんみたいな女性でした。ご主人はほとんど工場に顔を出すことは無く、もっぱら政府機関を相手に営業活動をしていると聞かされました。いわゆる政商の類なのでしょう。そこの鋳物工場は娘婿が工場長で、アメリカの大学院を卒業した息子には医薬品の製造会社を任せ、嫁に行った娘にはピアノ教室を運営させるという具合でした。この肝っ玉かあさんは、とにかく勢いのある人で、筆者の製造していた商品は必ずや国内販売と輸出で急拡大するからと主張し、こちらが諫めるのも聞かずに工場の設備増強に投資してしまい、挙句に増産を迫られたのには閉口しました。なぜか、漢字で筆談するのが好きな人で、一緒に食事をした時など、日本と中国での漢字の使い方の違いで盛り上がったものでした。

 ある商品を現地生産することになり、手始めに現地で既に作っているところに生産委託することになりました。何社が候補に上がったのですが、品質で選ばれたのは最も規模の小さい家内工業的なところでした。驚くことに、そこのおやじさん(社長)は、海外の雑誌に載っている写真や記事を参考に、作り方を工夫したとのことでしたが、それらが日本で採用されている、手作り高級品のものとほぼ同じでした。量産体制に入る段階で社内生産に切り替えたため、その後のお付き合いはありませんが、若い職人達に作り方を教えながら自分も鼻歌を歌いながら作業に加わり、出上がった製品をポンコツトラックに積んで、一日かけてジャカルタ市内のお店に卸に行く、そんな悠然とした生き方を思い出すと自分の人生がひどく窮屈なものに思えてしまいます。

 小規模の内職的な仕事を請け負うことはジャカルタ人、いわゆるオラン・ブタユの得意とする分野でした。気が付かないうちに、いつの間にか従業員の一族、または友達が請負うことになっており、近所の仕事の無い人達を集めて作業をさせて上前を取る、これが彼らの賢い生き方だと教えられました。最近はジャカルタ市内では見られなくなったベチャと言う人力車、そして今でも独楽鼠のように走り回っているオート三輪のバジャイを何台か所有し、それを地方からの出稼ぎ者に貸し出して日銭を稼ぐ、そして自分は木陰の下で甘いジャワティーを飲み、煙草を吹かしながら知り合いと政治談議をする、そんな生き方を標榜していると聞かされたことがありました。従業員が自分の家族に仕事を委託?コンプライアンス上の問題ではないか!!・・・インシャアッラー。

次回のテーマは、8. リスクとクライシスへの対応、です。ではまた来週お会いしましょう。

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