インドネシア進出問答集 操業コスト編-2 急激な賃上げでコスト競争力は維持出来るのか
社長:インドネシアでは来年の賃上げ率が50%というようなニュースを目にしますが、本当にこんな大幅な賃上げが行われるのでしょうか?
小野:インドネシアでは毎年末に、州単位で設置された政労使の代表からなる賃金委員会が翌年の最低賃金を算定し、それを知事が承認する形で決定されます。ニュースでよく取り上げられるのは、外資系企業が集中している首都ジャカルタと、西ジャワ州でジャカルタに隣接する地域の最低賃金の値上げです。2012年から2013年への最低賃金の値上げは、首都ジャカルタがRp.1,529,000からRp.2,200,000で43.9%、ブカシ市がRp.1,470,000からRp2,100,000で42.9%、ボゴール市がRp.1,174,200からRp.2,002,000で70.5%となっています。
社長:これはジャカルタ周辺の企業の労務費が、一挙に1.5倍に上がるということでしょうか?
小野:必ずしもそうとは限りません。もしも、全ての社員が最低賃金だけの雇用契約であればそうなりますが、実際には最低賃金を上回る基本給の他に、諸手当を含めた賃金を支払っている社員が多いはずです。あるコンサルティング会社の調査によれば、それらをベースにした実際の賃上げ率は10.3%と言われています。
社長:インドネシアへの進出を考えていたのですが、アセアンの他の国へ変更した方が良いのでしょうか?
小野:調査資料によるとアジア諸国の来年の賃上げ率は、ベトナムが12.8%、インドが11.2%、中国が9.5%、フィリピンが8.0%、マレーシアが6.2%、そしてタイが6%と予想されています。インドネシアだけが突出している訳ではありませんので、慌てて行先を変えるのは危険です。
社長:しかし、これからも毎年二桁の賃上げがあるかと思うと、気勢がそがれてしまいすね。
小野:正規雇用の労働者の年間総人件費は約330,000円と予想されます。これは日本の約1/20程度ではないでしょうか。日本では製造コストに占める人件費の割合は非常に高いのが普通ですが、インドネシアでは10%以下というのが普通です。10%以下の人件費が仮に毎年10%上がった場合、どこまで競争力を維持出来るのか、詳細なコスト計算をした上で判断することが大事です。
社長:賃金だけではなく、色々なコストも一緒に上がっていくのでしょうね。
小野:インドネシアの過去10年間のGDPの推移は、日本の昭和40年代とほとんど同じというデータがあります。人口や経済構造は異なりますから、全く同じとは言えませんが、高度成長時代に入ろうとしていた当時の日本を思い出してみて下さい。インドネシアはこれから高度成長時代に突入する可能性が高いと言えるでしょう。それをチャンスと捉えるのか、あるいはリスクと捉えるのか、これ以上の説明は必要ないですよね。