インドネシア進出問答集 労働法-3 労働組合との付き合いは避けて通れない問題か
社長:うちの現地法人はインドネシア人の従業員数は20人程度の小規模なもので、家族的な人間関係を重視して、出来たら労働組合もなしで運営したいと考えていますが、現実的でしょうか?
小野:インドネシアの労働組合法では、10人以上の従業員から労働組合結成の要望が出された場合、会社はこれを拒絶出来ないことになっています。
社長:しかし、従業員が組合なしでも満足していれば問題ないのでしょ?
小野:設立当初はおそらく大丈夫でしょう。彼らも就職出来たことで暫くは満足感に浸っており、会社側の希望に対しても理解を示すでしょう。しかし、インドネシア全体に広がっている労働組合活動の『風』にどれだけ耐えられるのか、心配はあります。
社長:労働組合活動の『風』はそんなに強いのですか?
小野:1998年にスハルト政権が崩壊するまでは、基本的に労働組合活動は政府の管理下に置かれ、自由はありませんでした。しかし、その後の民主化に合わせて急速に広がりを見せ、現在ではほとんどの企業に一つ以上の労働組合が結成され、それらは中央組織の傘下に連なる様々な組合組織に所属しています。それらの組織が繰り広げる扇動活動から、自社内の従業員を隔離するのは至難の業でしょう。
社長:労働組合が結成されるのは時間の問題ということですね?
小野:いずれはそうなることは覚悟しておき、それにどう対処すべきかを会社の方針として確立しておくことが大事です。具体的には、労働組合が結成される前に、その準備活動として、従業員の代表と月例の意見交換会を開き、その場で労働組合の結成について話し合うことなどが考えられます。日本人駐在員にも組合活動の経験はあるでしょうから、日本における労働組合活動を紹介することなども大事なコミュニケーションと言えます。
社長:日本人が主体的に活動を進めて大丈夫でしょうか?
小野:積極的に関わることは大事ですが、調整役としてインドネシア人の労務・人事マネージャーに相当する人を置くことが必須です。特に外国人が人事・労務の管理職に就くことは法律で禁止されていますので、何はさておいても確保しておきたい人材です。
社長:いずれ労働組合が結成された場合、彼らから出て来る要求としてどんなことが予想されますか?
小野:労働組合が結成された後も、定期的な労使協議会は継続すべきと思います。その協議会においては会社の状況を説明するだけでなく、まずは組合員の声を聞くことを優先したいものです。社員食堂のごはんをおかわり出来るようにして欲しいなどの小さなことから、賃上げ要求に至るまでの様々な要望が出て来ると思います。
社長:要望や要求に対応するための基準みたいなものはありますか?
小野:会社にとってさほど負担にならないことは気前よく取り上げるべきでしょう。それだけでも組合員の信頼感を得られるでしょう。しかし、労働法や労働組合法などから逸脱していると思われるもの対しては即答を避け、専門の法律事務所や政府機関、またはインドネシア経営者協会(APINDO)などに相談することが大事です。特にインドネシア語の意味が良く判らないからと言って、現地のスタッフに判断を一任してしまうようなことは、決してやらないようにして下さい。